医学部新設に関する一考察

文科省が30年ぶりに新設医学部の検討を始めるとのこと。

もし私立医学部の乱立になれば、学費の高い私立医学部に入学させることのできる家庭の子弟のみが入学することになるだろう。

結局は学費分を取り戻すために開業する、あるいは訴訟などの少ない科を選択する人が増え、
現在のような救急医療や産科医療、そして地方自治体の総合病院の医師不足は全く解消できない結果になるのは目に見える。


現在、目的別の医学部は「自治医科大学」「産業医科大学」「防衛医科大学」がある。
いずれも卒後の義務年限がある代わりに、学生の学費負担が少なくて済んでいる。

それでも「自治医科大学」は地方自治体ごとに合格者が決まるため、開業医の子弟は敬遠されがちである。
なぜなら「義務年限を免除するために、学費を違約金を払ってでも返還してしまう(返還できる)ので、結局僻地に従事しようとしない」ということらしい。

私立医学部は2000万〜5000万の学費がかかるが、それを支払う能力のある家庭の子弟だけが入ることができるような医学部の新設は反対である。


さらに、ある予備校では私立医学部専門のコース(費用1000万)も設置している。
このような所に通わせることのできる家庭の子弟が入ることのできるような医学部の新設ではなく、もし設置するとしたら、奨学金の充実や、卒後の目的をはっきりした医科大学の新設を検討していただきたい。

地方自治体では医師が不足しているのに、一方では集患がうまくいかず廃業する開業医もいるのだ。
このアンバランス。

また現在でさえ、医学部の先生方は「診療」「研究」そして「教育」を行わねばならず、非常に大変な状況である。まさに激務である。

さらに新しい医学部を新設するということは、その医学部教育に従事する教授、准教授、助教授・・・などのスタッフが必要なのだ。

それだけの人数が「現在のただでさえ崩壊しつつある医療」からマンパワーがそちらに取られてしまうことも忘れてはならない。

現在の医学部の学生の間では「訴訟が怖い」「訴訟される可能性のある科は行きたくない」という話がよく出ている。

患者の側にもきちんとした意識が必要だ。「コンビニ受診を控えること」に関しては一時期より啓蒙されてきているような気がする。

命に向き合うというのは「天命」もあり、「完璧」はないというのを皆がしっかりと受け入れなければならない。

医師は人間であり、神ではない。医師に神であることを求めるような現在の社会では、いくら医学部を増やそうとも現状の打破にはつながらない。

また現在の臨床研修医制度の導入により、医学部は6年ではなく研修期間も含めて考えなければならなくなっていると言っても過言ではない。

今までは「任侠」に近い旧医局体制があったからこそ、先輩は後輩に心血注いで指導をし、技術や医師としての姿を伝えてきたのだ。短期間に回る研修医に、そこまで指導できるだろうか。

どんなにかわいがっても、勤務時間が長くない科、訴訟の可能性の少ない科にまわる率が高い研修医に、医師のスキルや医師としてのあるべき姿をかつてほど熱心に伝えようとできるだろうか。

文科省が新しい医学部新設にむけての検討をするくらいなら、現在の臨床研修医制度を見直してほしい。

また、「文部省の犠牲となった」とすら言える「ゆとり教育」で育った子供と、その子供を育てた親世代が今どのようになっているかを胸に手を当てて考えてほしい。
なんでも自分の主張だけが正しく、思った通りにならないと破壊する「モンスター」が増殖したことをしっかりと考えてほしい。

地域医療に長年熱心に取り組んでいらした医師さえも、住民からのいやがらせや後を絶たないクレームによって医師をやめる決心をしてしまうほど社会はすさんできている。

また、「煽る報道」は絶対にやめてほしい。

医療の崩壊の大きな原因のひとつに、マスコミの興味本位な報道、安易な表現があるのを私は感じる。

医学部を新設するならば、きちんと目的を明確にした医学部にするべきであり、また、経済的にさなざまな事情を抱えていたとしても学ぶことのできる環境を整えるべきだ。

①現在の「臨床研修医制度」をもう一度見直し(厚労省)、
②社会一般の心のケアをしっかりできる義務教育・家庭教育を見直すべき(文科省
③マスコミは興味本位な安易な表現、本質も見据えない報道はやめること
が優先であると私は思う。

その上で「経済的にどのような状況の者でも入学することのできる」「目的のはっきりした医学部の新設」「学費の高い私立医学部の乱立は避ける」ことを検討してほしいものである。

医学部教育に関しての記事はこちら
「医学部教育への希望」
http://blogs.yahoo.co.jp/harenihiamenohi/24171652.html

「定員をふやすより留年率を下げるしっかりした教育を」
http://blogs.yahoo.co.jp/harenihiamenohi/27953614.html

「あなたは我が子を医師にしたいとおもいますか」
http://blogs.yahoo.co.jp/harenihiamenohi/20647188.html