「パワハラ」と誤解されないために
個人開業医は院長が男性でスタッフは全員女性というところが少なくない。
2000年ころから職場の人間関係などを原因とするPTSDやうつ病と診断される傾向が多くなり、
それとともにパワーハラスメントに対する厳しい見方がマスコミや司法にみられるようになった。
最近ではマスコミの報道の仕方やネットの普及で労働者側も色々な知識を得ることが出来るようになり、特に雇用者の男性は女性従業員に対して以前にも増した細心の注意が必要となっている。
上司である院長からすれば叱咤激励や指導教育の一環のつもりでも、
公の場で処罰するような発言や人格否定は許されない。指導するにしてもタイミングや場所、
言葉を慎重に選ばないといけない時代になったのである。
最近ではむしろちょっとした冗談を言ったつもりなのにセクハラと呼ばれたという上司側の悩みや、
以前ならオヤジギャグで笑えたことも、今はパワハラ・セクハラと言われかねず、
怖くて女子社員とは口がきけないという人も実は多くなっている。
雇用者側はスタッフの士気とクリニックの評判を落とさないようにしたいと思いつつ、
パワハラに関しては法的定義がなく、基準もあいまいなため、過剰反応も引き起こしかねず、
対応に頭を痛めている院長も少なくない。
そのためスタッフに注意できない院長が「やめられると困るから」ということで、
奥様が院長とスタッフの板ばさみになり対応に苦戦している場合も多い。
日本産業カウンセラー協会調べによれば、いじめ・パワハラが起きた部署の兆候は次のとおりである。
•社員同士のコミュニケーションが少なかった
•管理職の指導力が欠如していた
•個人による業務が多かった
•成果主義・能力主義を導入した
•過重労働だった
•社員の入れ替わりが激しかった
•業績が悪化していた
さて、あなたのクリニックはどうであろうか。
これからは特に男性と女性の「思考の違い」を十分理解した上でコミュニケーションを取り、
雇用していくことが重要であろう。
そうしないと指導や励ましたつもりがいきなり「セクハラ」「パワハラ」と言われかねない。
特に最近は「打たれ弱い」「被害者意識が強い」人が多くなり、注意が必要だ。
男性は理論型の思考であるのに対し、女性は感情型の考えをする。
それゆえ女性と話をする場合はなお、感情に焦点を当てることを忘れてはいけない。
男性からすれば「結論は?」「何がいいたいの?」という形になってしまいがちだが、
女性のカンに触る言い方は極力避けるようにする努力が必要だ。
これは夫婦間でも言える(笑)。
特に理系人間である院長は、感情に焦点を当てるなどと言うことは視野に入っていないことも多い。
そのような院長の場合は特に女性スタッフとのやり取りの中には妻である奥様が上手に間に入ることが大事だ。
たとえば最近化粧が濃くなってきたスタッフに対し、院長はなかなか言うことができない。
言ってしまえば「セクハラ」と言われかねない恐れもある。
患者さんからのクレームでもあれば言いやすいのだが、実はなかなか難しいケースなのである。
そのよう時、同性である妻なら「医療機関はご高齢の方もいらっしゃるので、好印象を与えるナチュラルなお化粧の方があなたの良さをアピールできると思います。」とさりげなく言うことができよう。
実はこれは日ごろから、妻である奥様と同性の女性スタッフの間に信頼関係があるかどうかが鍵となる。
個人クリニックのスタッフは独身女性や若い女性も多い。
そのため、結婚、妊娠、出産はよくあることとなる。
雇用者側も労働者側もどのようにスムーズにその時期を乗り切っていくか。
セクハラと言われないように上手にこの時期を迎え、乗り切っていくことができるかどうかこそ、
同じ女性である妻の腕の見せ所かもしれない。
当院でも突然の結婚やおめでた婚などもあった。
おめでたがわかった後、出勤しながら無事に出産を迎えたスタッフもいたし、
途中で何度も休まなければならないスタッフもいた。
その都度その都度、姑のごとく心配していた私である。
まだ結婚前のスタッフがどうもつわり症状が出ているらしいと他のスタッフからの情報が入ることもあった。
このような時はどのように本人に聞くか、本当に難しいところだ。
「最近、体調がすぐれないようだけれども大丈夫?」など、さりげないタイミングから入っていったこともある。
「セクハラ」になるかならないか・・・細心の注意も必要だし、何よりも日ごろからコミュニケーションをとり、信頼関係を築いておくことが一番だろう。
信頼関係ができていれば、あらかじめ「もしおめでたいことがあれば、気兼ねなくお休みしていただけるように勤務のシフトを考えていくことも必要になりますので、他のスタッフには時期がくるまで伝えないでおくこともしますので、早目に相談してね」と日ごろからごく自然に話しておくこともできる。同姓の妻だからこそ言うことができることであろう。
このほかパワハラと言われないために、院長や先輩スタッフが、スタッフや新人に対して
繰り返し必要以上に大声で怒鳴ったり、厳しく叱責したりしていないか目を光らせることも大切だ。
「このように言われました」と言ってきたスタッフに「仕事なんだから我慢して」とか
「それくらいのことで凹んだら、業務ができない」などと言ってしまいがちだが、
まずは「感情に焦点を当てる」ことが大事だ。
「そう・・・それはショックだったでしょうね。」
「そのように言われたらショックだったでしょう。」
その時点でスタッフは「気持ちをわかってもらえた」と思うのである。特に感情型の女性であればなお。
また他の人のいる前で注意するとパワハラと言われかねないからと・・・と個人を呼んで注意をすることもある。
この場合は必ず第3者に同席してもらうことが大事だ。
なぜなら「密室で関係があった」などと言われたら、たとえそのような事実がなくても院長の立場は弱くなるからである。たいていは私が同席することとなる。
思いがけないところから「パワハラを受けた」「セクハラされた」と言われないように、特に女性スタッフを多く雇用している院長先生は、「感情に焦点を当てる」訓練をなさってはいかがだろうか。
まずは奥様のお話を10分間、ただただ聞いてほしい。
「はひふへほ」の術を使うのだ。
「は〜、なるほど」「ひえ〜?」「ふ〜ん」「へえ」「ほお」
決して途中で「で、結論は何?」「結論から先に言って」「何を言いたいの?」などと話をさえぎらないことだ。
女性の感情型の会話には、最初から結論がない場合も多い(笑)
それより、「話を聞いてもらえた」ということで、気持ちはスッキリするものだ。
身近な奥様相手にトレーニング^^
日ごろからのコミュニケーション、心の向き合わせ方で、「言われなきパワハラ」騒動はある程度回避できるのである。