乳幼児の医療費の窓口負担無料化には慎重な対応を

衆院選を前に、各党が公約を発表している。
中でも「医療費の窓口負担の無料化」に関しては、私は現実問題を考えて慎重にしていただきたいと思う。

うろうろ先生の記事もご参照ください。
http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/30097125.html

特に就学前の子供の医療費の窓口負担の無料化に関しては、「良識ある親たち」だけではない日本の現代社会を見るたび、医療の現場がますますやせ細っていくのではないかと感じてしまう。

医師の疲弊などおかまいなしに「夜の方が待たなくて済むから」「(市町村助成で)どうせ無料だし」「昼は出かけていて(どこに?ときくと、友達と買い物に行ったとか・・)、連れてこられへんかった」と当たり前のように言う親が増えているのが現在の現場だ。

このような中での24時間の窓口の患者負担の無料化は医師の疲弊を助長させるだけだと思う。
「本来ならば昼に来院できるはずだったのに無料だからという勝手な考えで無駄に夜に受診しようとする患者さんの増加」が避けえないように思う。

あるいは、救急車の有料化案のように、重症度によって、患者負担分の発生もやむを得ないのではないかとさえ思うこともある。
(以前の記事はこちら^^ → http://blogs.yahoo.co.jp/harenihiamenohi/21898633.html


本当に治療が必要な患者さんへの医療が後手になる恐れもあるし、(しかも当直に関する医師の疲弊は新聞報道などですでに周知のことだと思うが)かえって医師の疲弊を助長するだけなのではないか。

また医療費の窓口負担の無料化にした場合、かつて奈良の病院で生活保護受給者の患者さんに無用な高価な検査(心臓カテーテル検査)を行ったように、中には道徳的に反する医療行為をする医師もいるかもしれない。

さらに窓口負担を無料にしたら、患者負担分はどこから賄われるのか。結局は税金のどの部分があてられるのか。その部分をしっかり公表してもらいたいものだ。


先日、1冊の「医療の本質をズバリ記した本」を見つけた。
臨床医である里見清一医師が書かれた「偽善の医療」(新潮出版)である。

『患者さまという偽善に満ちた呼称を役人が押し付けたことで、医者は患者に「買われる」サービス業にされた…』

里見氏は書かれている。
『多くの点で世の中に逆らい、世の「良識」に挑戦するような表現も目立つと思うが、確信犯とお考えいただいて結構である。』

どうしても歯にものが挟まったような本が多い中、「よくぞ言ってくださった」という内容と感じるのは私だけではないと思う。(私も世の「良識」に挑戦するような表現で書いていることがあるので 汗;)

そしてまた、最後のお話。
肺がんで化学療法の後、腰椎の転移のため強い腰痛があり車いすで来られた患者さんに、「先生、コーヒー飲むかい?」と差し出された缶コーヒーを受け取って缶をあけ、飲みながら患者さんの診察をなさった。

生暖かいコーヒーは里見先生の嫌いな味だったが、最後に患者さんに付き添っておられたご長男さんが診察室から出られる前に「コーヒーを飲んでいただいてありがとうございました。」とにっこり笑って礼を言われたそうだ。

里見先生は考える・・「私はこの時、うれしそうに、また美味しそうに、コーヒーを飲めていただろうか。」と。

このような感性をお持ちの里見先生が過ごされた現場から提示された問題の数々だからこそ、私は「良識の中から出たもの」であると感じる。


個人診療所と言う小さな日々の診察の中でも、なぜこのような人が生活保護を受給?という方もいるし、窓口無料という市町村の助成制度に胡坐をかいて、非常識な時間帯に当然のように受診する人もいる。

本当に必要な部分に、必要なだけの医療費が使われていくことをもっと考えて言っていただきたい。


最後に・・・
とある関係部署に「窓口負担金の未払いの常習犯に対する対応をどのようにしたいいですか?」と問い合わせたことがある。

その方はこのように言われた。「診察を受けるというのは、患者として治療費を支払うという、いわば医師と患者の間で契約を結ぶものです。その契約を守れないのならば、医師も対応を考えてみてもいいのではないですか」と。

ずいぶん斬新なことを話す人もいるものだなあと思ったものである。


しかし現実は医師法の「診療応召義務」などのヴェールをかぶせられるおかげで、目の前に治療を必要としていらした方がいれば、医師は診察をしなければならないと定められている。

現場の医療機関は未払い対応でも四苦八苦している。
モラルの低下で現場の疲弊が相当である事実。その部分を十分に理解していただきたいものだ。

一開業医の妻が声にするにはあまりにも小さい力しかないが、就学前の子供の医療費の窓口負担の無料化については、特に現実問題をよく理解した上で対応を考えていってほしいと願う。